枷と鎹

熱く激しい豊田での3日間が幕を閉じた。
波乱の、といって良いだろう。



レギュラーラウンドで圧倒的な強さを見せつけたサントリーは白星を得ることができなかった。
全6試合中3試合がフルセットであり、最終日まで全チームに優勝の可能性が残った。
先に2連勝して優位に立ったはずの東レは最終的にセット率に泣かされた。



結果は既に各所で取り上げられている通りだ。
この試合内容の総括をできる心境には…正直まだ程遠い。
今年は変革一歩目の年、4強に入っただけで御の字。
頭ではいくらでも納得できるが、やはり心の方の喪失感は誤魔化せないのだ。




代わりに、ここ数カ月で私がずっと考えていることを綴ってみる。
どのチームのインタビューにも高頻度で出てくる「らしさ」という言葉。



負けた時には「うちらしさが出せなかった」
勝った時には「自分達らしいバレーができた」
とかいうアレである。



各チームにはそれぞれの色がある。
攻めるのが得意なチームがいれば、守ることを武器にするチームもいる。
それを端的な言葉で表したものが「〜らしさ」なのであろうことは、感覚的には理解しているつもりだ。
だが、こうも毎週インタビューで耳にすることになると、その意味を問い質したくなる。
その単語が示すものは、果たしてチーム全員が共有できているのだろうか。
むしろその言葉に縛りつけられてはいないだろうか。



…いや、もう具体的にいこう。
今回、東レパナソニックにまたしても、の敗戦を喫した。
直近の重要な試合、というなら昨季セミファ、ファイナル、今季天皇杯決勝、そして豊田。
全てが黒星である。…ここまで来ると、悔しさよりも何が足りないのかという思いの方が募る。



セミファ後のいくつかの記事を拾い読みした限り、「今の粘りや守備だけでは厳しい」という考えが出てきていることが伺えた。
勝負を分けたものの一つとして、パナソニックが売りとしている高い決定力、サーブ力に押し切られる形になってしまったことは受け止めなければならないと思う。
それらは従来の「東レらしさ」において重点を置いたものではなかっただろう。



メンバーの特性や資質を考えたら、現実的ではないかも知れない。
だが、チームを構成するメンバーは絶えず替わっていき、周りの戦術・戦略も、そしてルールも変化していく。
ここ1年、「らしさ」という3文字でまとめきれないくらいの変化があのチーム周辺に起きた。
これまで活かし続けてきた粘りと守備はチームのベースとして残しつつ、新たなカラーを加える時期に来たということか。



もっと個人の話をするなら。
スタメン定着や全日での経験を経て、彼の代名詞でもあった「守備の安定感」に、攻撃の引き出しを増やした米山。
北京を機に、特技のブロックだけでなくクイックの強化を図った富松。
チームでの役割の変化を感じ、売りのパイプはそのままに、ライト攻撃やレセプションといった苦手分野を払拭した角田。


あくまで一例である。
長所を残しつつ、プラスアルファを加えることで輝きを増した選手は他にも沢山いるだろう。




願わくば、その新しいカラーには現有戦力である全員の何かが反映されていて欲しい。
今回アップゾーンや記録席にいた選手には、まだまだその可能性が秘められていると思う。



残すことと、加えること。
あくまでも後者が前者を上回らない程度に。
ここからどのような匙加減でチームを変えていくのか、変革期ならではの過程をしっかり楽しみたいと思う。



ファイナル/3決、そして黒鷲に向けての戦いがまた始まる。