いまだ、そこだ、舞い上がれ
コートにいて当たり前の存在だった。
少なくとも、観戦経験の浅い私がVリーグを観始めた頃は。
Vリーグ優勝の立役者のひとりであり、レフト/ライトや前衛/後衛を問わず硬軟織り交ぜた多彩な攻撃で得点を叩き出してくれるエースアタッカー。
外国人OPが怪我をした時や不在の時は得点源としてコートを舞う。
そんな彼も、ここ数シーズンは控えに回ることが多くなった。
数多の選手が通ったように、途中出場や絶対に白星が欲しい試合でのスタメン起用*1が求められ、コートにいつでもいる存在からコートを引き締め、盛り上げる存在へとシフトしていった。
出場機会の減少で、モチベーションの低下がないといえば嘘になるだろうとは思う。
だが、そんな中でも彼のチームへの貢献は枚挙に暇が無い。
夏場は、瀬戸口さんや大木さんら和製オポの後継者達に時間を割いて話をする場面が何度も見られた。
ファン感では皆様も御存知の通り、余興を仕切り率先してバスガイドに扮し、楽しい時間を更に輝かせてくれた。
アップゾーンでは、若手よりも声を出し、自チームに対して叱咤激励をし続けていた。
勿論、自分がコートに入った時は練習だろうが試合だろうが全力だ。
自分の前でボールが落ちれば大声をあげて悔しがり、天を仰ぐ。
スパイクが決まればガッツポーズで喜ぶ。
そこには、エースアタッカーだからという驕りやプライドは微塵も感じない。
当たり前なのかもしれないが、それでも実行するのは容易いことではないはずだ。
昨年だったか、久々の出場で「今田さんのバックライトを久々に見ることができて嬉しい」ということを御本人に伝えた日があった。
「でも、僕はあくまでもウィングスパイカーだから。攻撃だけじゃなくてレセプションがしっかりできないと意味が無いでしょう」と、笑いながら答えてくれた。
しかし、私が知る限り*2、彼が本格的にレセプションに入り始めたのは東レに入ってからのはずだ。
それを自分で誇れる武器にまで磨いたからこそ、彼は優勝した試合にスタメンとしてコートに立っていたのだろうと思った。
出場機会が減ってからも、ひとりでレセプション練習に入る今田さんを幾度か見かけた。
ちょうど米山さんが主将に就任したばかりで苦しんでいた時期だった。
彼なりにチームに貢献できることをしっかり探していたのだろう。
多くの方が予想されたように、今季の3位決定戦での登場の仕方にはいやでもその二文字がよぎった。
覚悟はしていたつもりだった。
だが、実際に勇退コメントを拝読してしまうと、どうしようもない寂寥感が溢れてくる。
「今季出場機会に恵まれなかったメンバーを中心として…」からの一文は何度読み返しても心に刺さる。
スタメンの華やかさと厳しさ、控えのもどかしさと辛さ、双方を知る彼の文章はひとつひとつが重みを持って響いてくる。
最も今季のチーム状態を憂い、これからの東レを心配していたのは彼だったのかも知れない。
選手として、ムードメーカーとして、多くのチームメイト、スタッフ、ファンに愛された今田さんのラストの舞台を、少しでも長く見たいと願う。
強いサーブもしっかり返してコートに鋭い一撃を叩きこむ姿を焼き付けるために。
彼の公式団幕のフレーズである「いまだ、そこだ、舞い上がれ」の如く。